OJTトレーナー(育成担当者)とは?OJTトレーナーの役割から求められるスキルまで解説
更新日:2024年05月08日
公開日:2024年04月30日
OJTは新入社員の実践的な教育のため、多くの企業で取り入れられている育成手法です。OJT実施の際はトレーナーが任命されますが、どのような役割や能力が必要なのかわからないという人もいるでしょう。
この記事ではOJTの概要からトレーナーとメンターの違い、役割、必要とされる能力などについて解説しています。OJTを成功させるためのポイントについても述べていますので、記事を参考にして効果的なOJT研修を実現しましょう。
目次
OJTとは?
OJTとは「On the Job Training」の略で、職場での実務経験を通じて知識やスキルを習得する育成方法のことです。主に新人を対象として、同じ部署の上司や先輩がトレーナー(育成担当者)となり育成を行います。
実務を通して指導するため、座学の研修だけでは身に付かないスキルやコツを学べ、高い効果が期待でき、即戦力化も可能です。基本的にはトレーナーとOJT対象者のマンツーマン指導となるため、疑問や不安などを相談しやすいというメリットがあります。
また、OJT対象者の持っている知識・スキルや、技術習得度に合わせた指導ができるのも特徴です。OJTは育成中から現場で働くため、職場でのコミュニケーションにも役立ちます。早期に業務に慣れ、成果をあげられると自信やモチベーション維持につながり、離職防止にも効果的です。
ただし、OJTではトレーナーの能力によってトレーニングに差が出るというデメリットもあります。トレーナーのスキルアップのため、事前に指導者研修などを行う企業も増えています。
参考:OJT(On-the-Job Training)とは?企業と社員のメリット、デメリットを解説
OJTトレーナーとは?
OJTトレーナーとは、トレーニー(OJT対象者)に対してOJTを実施する指導者を指しています。トレーナーは業務に関して経験と知見がある中堅社員や教育部門から選ばれます。一般的にはOJT対象者が配属された部署の上司や先輩が担当することが多いようです。
トレーナーに任命された社員は、OJTプログラムにそって業務に必要な知識や能力を、担当するOJT対象者に説明・指導します。OJTの目標に到達するまでスケジュールの進捗を管理したり、対象者にフィードバックや評価を提供します。
OJTトレーナーは育成を行うかたわら自分の本来業務も同時にこなすことが必要です。そのため、時間的な余裕が減少し、仕事の負荷が増大しますので、タイムマネジメントやメンタル管理能力も重要になります。
OJTトレーナーとメンターの違い
OJTでは、トレーナーとは別にメンターを配置することがあります。OJTトレーナーは現場において業務に必要な知識やスキルを指導するのが役割です。一方、メンターは精神的な支援をはじめライフプランやキャリア形成などさまざまな悩みに対応します。
トレーナーが配属先の部署から選ばれるのに対し、メンターは一般的には所属する部署とは異なる部署の先輩社員が担当します。OJT対象者にとっては利害関係のない先輩社員となるため、仕事上の悩みや人間関係の不安なども話しやすいのがメリットです。
OJTトレーナーとメンターがそれぞれの役割を果たすことで、OJT対象者はよりスムーズに職場に順応することができます。これにより一般的な新人研修や教育ツールよりも早期戦力化が可能になり、対象者のメンタル支援も充実し、離職防止に効果的です。
OJTを実行する上でのOJTトレーナーの役割
OJTを実行する際には、OJTトレーナーに求められている役割を十分に理解しておく必要があります。OJT対象者を育成するためにどのような支援をすべきか、しっかり把握しておきましょう。
教育プランの設計
OJTトレーナーは、OJTプログラムの目標やカリキュラムを策定し、対象者のニーズや能力に合わせて教育プランを設計します。目標や教育プランは人事部・管理職と共に、企業理念や会社の求める人材、部署で必要とされる人物像などをもとに決定します。
はじめに会社の求める社員像と職場に必要なスタッフ像のすり合わせを行っておくことが重要です。これにより会社全体で社員育成に取り組む姿勢が明確になり、実施の際にもサポートを受けることができます。
目標を明確にした上で、いつまでにどの程度必要な能力を習得すべきか洗い出し、スケジュールに落とし込みます。OJTを実施してみて、スケジュールに変更が必要な場合は柔軟に対応することも大切です。
指導とデモンストレーション
OJTトレーナーは実践的な作業や業務のデモンストレーションを行い、OJT対象者が理解しやすいように指導します。そのため、トレーナーは業務に関して精通しており、十分な知識やスキルを提供できることが前提です。
たとえば営業先に同行したり、電話応対や受付対応など実際の業務を行いつつ習得を促します。実際業務を見せた後はなぜその順番で行うのか、どうしてその手順が必要なのか理論的な説明を行います。これにより対象者は今見た作業に対する理解を深めることが可能です。
OJTトレーナーは対象者に対し、業務に関する指導や相談、情報提供などを行い、育成プランに沿って早期戦力化を目指します。指導の際にはOJT対象者の知識・スキルレベルや得意な学習スタイルなどを考慮することが大切です。
フィードバックの提供
OJTトレーナーは、OJT対象者のパフォーマンスを観察し、適切なフィードバックを提供します。業務実践後、早めにフィードバックを行うようにすると、対象者の記憶が鮮明な分、より高い効果が見込めるでしょう。
フィードバックでは成果を認めるだけでなく、改善のためのアドバイスや指導も行います。
デモンストレーションで伝え忘れたことなどもここで伝達していきます。担当するOJT対象者の苦手な作業などが明らかな場合は、その作業習得に時間を割くようなスケジュールの調整が必要です。
うまくできた点は褒めてさらに上達を促し、できなかった点はいつまでにどこまで習得するか相談して決定します。OJT対象者が理解不足である場合はデモンストレーションから繰り返します。
学習の進捗管理
OJTトレーナーは、OJT対象者の学習進捗を管理して、必要に応じてプログラムを調整します。目標に向けて適切なスピードで進行するような支援が大切です。段階的に小さな目標を設定するようにし、スモールステップで習得を確認しましょう。
トレーナーは対象者と定期的に面談を行い、目標やカリキュラム、指導方法を振り返り、フィードバックによって成長を促します。習得度合いによって育成プログラムの修正の必要性を感じたら調整しつつ、OJT対象者の成長を継続して支援していきます。
一時的に進捗が遅延することがあっても、全体として目標に到達すれば大丈夫なので、過度な負担をかけない配慮も大切です。OJT対象者にはさまざまな個性やレベルがあるため、担当する相手を十分に観察し、適切な指導を心がける必要があります。
モチベーションの維持
OJTでは対象者のモチベーションを高めることも重要です。OJTトレーナーは対象者のモチベーションを高めるために肯定的なフィードバックや励ましを提供します。OJT対象者とコミュニケーションを取り、困難なタスクに対するサポートや理解を示し、自信を持たせるようにします。
育成計画通りに能力を習得し、成果をあげられるようになると、やりがいや意欲の向上が可能です。会社の期待に応えることができたり、職場で結果を出したりすることは大きなモチベーションアップにつながります。
所属する部署で役立てている実感も持てるため、コミュニケーションもスムーズになるでしょう。高いモチベーションを維持し続けることができれば、生産性向上や離職防止に効果的です。
OJTを実行する上でのOJTトレーナーに求められるスキル
OJTトレーナーには指導者として以下のようなスキルが求められます。トレーナーの役割を十分に果たすためには欠かせないスキルですので積極的に身につけることが必要です。
専門知識や技術的スキル
OJTトレーナーは、自身の専門分野や業務に関する深い知識を持っている必要があります。初心者に教えるためには業務の手順やプロセス、技術的なスキルなどに精通していることが求められます。
指導のためにすでに身につけている知識をブラッシュアップさせると、自身の今後の仕事にも役立てることができるでしょう。担当するOJT対象者の知識や持っている能力に合わせて、理解しやすい言葉で伝えることが重要です。
新卒社員の場合はビジネスマナーなども同時に教える必要があります。顧客に対応する際の原則や心構えもあわせて指導すると、ビジネスパーソンとして成長が期待できます。
教育・指導スキル
トレーナーには教育や指導に関するスキルが不可欠です。明確な指示や説明を行い、OJT対象者が理解しやすいように伝達する能力が求められます。担当するOJT対象者の持っている知識・能力・個性を理解した上で、相手に合わせた説明や指導をする能力が必要です。
業務用のマニュアルなどを対象者に合わせてカスタマイズしたり、レベルに応じた参考資料なども用意しましょう。どの順番で指導するか、理論を先に述べた方が良いかなど、業務の流れや習得しやすさによって決めることも必要です。
トレーナーはOJTスケジュールに沿って定期的な面談を行いフィードバックや評価を提供します。トレーナーから良い点やできなかった点を指摘するだけでなく、本人にも振り返りをさせ成長につなげていきます。
コミュニケーションスキル
OJTトレーナーにはオープンで明確なコミュニケーションを行うことが求められます。OJT対象者との親密関係を築き、円滑なコミュニケーションを促進することが重要です。
「教える」ことが中心となりますが、それとともに相手がどう感じたり考えたりしているのかをよく聞き理解することも重要です。コミュニケーションがうまくいくと信頼関係も深まり、OJTの効果を十分に発揮できるでしょう。
また、OJT実施中に配属先の同僚などとのコミュニケーションの機会を提供することも大切です。同じ部署のスタッフと一緒に業務に取り組んだり、話す場を持ったりすることで早期に職場に馴染むためのサポートができます。
問題解決能力
トレーナーは、OJT対象者が遭遇する問題や課題を解決するための支援を提供する必要があります。柔軟性を持ち、創造的な解決策を見つける能力が求められます。
中にはトレーナーの想定外の場所・場面でつまずくようなこともあるかもしれません。どのような点でつまずきうまくいかないのか観察し、良い解決策を見出していきましょう。
業務を遂行するための能力不足で支障があるのか、それとも精神的な疲労やストレスが溜まっているのか見極めることも重要です。メンタルに対するケアが必要な場合はメンターとの対談を増やすなど、スケジュール調整を行い対応しましょう。
OJTを成功に導く上でのOJTトレーナーが注意すべきポイント
OJTを実施したからといってすべてうまくいくとは限りません。OJTを成功させるためにトレーナーは以下の点に十分注意しましょう。
明確な目標設定を行う
トレーナーはOJTプログラムの目標を明確に定義し、OJT対象者と共有する必要があります。目標が明確であれば双方が進捗を理解し、目標に向かって進むことが容易になるからです。そのため、トレーナーはOJT開始時に対象者が十分理解できるように目標と踏むべき段階について説明します。
また、目標に到達するまでの期間を定めることも大切です。一般的には1年を目処に基本的な知識・能力を習得させます。期間が決まれば、この時期であればここまで進んでほしいという段階的な目標が組め、フィードバックや評価もしやすくなります。
OJT対象者のニーズを理解する
トレーナーはOJT対象者のスキルレベルや学習スタイル、個々のニーズを理解することが大切です。担当するOJT対象者をきちんと理解することで、相手に合わせてカスタマイズしたトレーニングプランの提供が可能になります。
OJT対象者には知識・理論をより多く求めるタイプや、知識よりも経験を重視してスキルを身につけたいタイプなどがあります。相手に合わせたトレーニングプランを実施することで、最適な学習体験の実現が可能となるでしょう。
OJT対象者の好きな時間に復習できるように、資料や動画などを提供するのも良い方法です。
話しかけてもらいやすい雰囲気を作る
トレーナーはオープンで受け入れやすい雰囲気を作り出し、OJT対象者が自由に意見や質問を述べられる環境を提供しましょう。OJT期間中は対話を奨励し、ポジティブな言葉で対象者の自信を高められるような取り組みを行います。
OJTトレーナーが対象者と関係を構築する上で、相手を理解しようとする姿勢が大切です。相手の行動や態度、言葉遣い、他者とのコミュニケーションの取り方なども考慮し、理解を深めていきましょう。
正しい評価と根拠を提示する
OJTにおいてフィードバックや評価を行う際には、具体的で客観的な根拠を提示することが大切です。トレーナーはOJT対象者の強みや改善点を明確に説明し、成長に役立つ指導を提供することが役割です。
OJTスケジュール通りに進んでいる点や失敗点を共有し、ゴールまでの進捗を一緒に確認します。段階を踏んでスキルの習得が進んでいると実感できれば、モチベーションも向上します。改善点に関して指摘するだけでなく、一緒に対応策を考え実行しましょう。
指導、実践、評価を繰り返し、OJTの目標に到達するまで支援を継続していきます。
OJTトレーナーは、OJTを成功させるために重要なポジション
OJTプログラムを実施する際は、指導するトレーナーのスキルや人的資質が重要です。トレーナーは自分の役割を十分に理解し、持っている知識やスキルを上手に伝達することが求められます。
業務に関する知識をブラッシュアップし、教育や指導の経験が少ない場合は研修などを受けて学んでおきましょう。その際にコミュニケーションスキルや問題解決能力も学んでおくと安心です。指導者となることで自分の能力を大きく伸ばすことが可能です。
OJTをうまく進めることができれば、新入社員の早期離職防止につながり、生産性も向上できます。トレーナーは自分の本来業務と指導を両立させるためにタイムマネジメントやストレスケアも行いましょう。上手に時間をやりくりし、OJTプログラムを成功に導きましょう。